2019年01月28日
笑顔の長い夜

昨日は、初七日。
悲しみは忙しさが消してくれたのかな。
それとも、キミがそうさせてくれているのかな。
いつもキミのそばで見守っていたスヌーピークッション。
今は柔らかな肌触りで私を慰めてくれます。
1月20日(日)
22時47分、ご臨終です。
十数名の人達がいる空間が、しーんと静まった瞬間だった。
そして、救急スタッフの皆さんは、それぞれの持ち場に散っていった。
キミの頬を触っている私に、
少し、そばに居ますか?
いえ、居て上げて下さいと、先生が言われて私は用意された椅子に座った。
すると、スタッフのひとりがキミに近づき話し出した。
見ると、キミと同年代くらいの若い男性看護師さんだった。
点滴がなかなかとれなくて、何度も痛い思いをさせてしまいました。
もっと早く、止めれば良かった。
本当にごめんなさい、と私に、そして、ごめんね、とキミに。
大丈夫ですよ、皆さん、ありがとうございます。
と私は言った。
先生から、急なことでしたので、原因がはっきりしていません。
今からCTを撮って判ることがあるかもしれませんのでよろしいですか?と聞かれた。
お願いします。
何度か救急車で来ているためか、救急科にも顔見知りの看護師さんがいて、労り話しかけてくれた。
再び、先生からCT画像からは原因がわかりませんでした。
解剖して突き止めることもできますが、希望されますか?
いえ、それはしなくても良いです。手術でたくさん頑張りましたから。
では、これで私ども医師の処置は終わりになります。
ここからは、看護師さんが対応。
優しい眼差しだけど、テキパキと動く体。
今から、体をきれいに整えますが、気管カニューレやチューブはどうされますか?
そう聞かれると、返答に困った私の顔を見て、
ごめんなさい。体の一部だからとそのままでと言われるご家族さまもおられるので尋ねました。
そう言うことでしたら、全部はずしてスッキリさせて下さい。キミもスッキリしたいと思うのでお願いします。
わかりました。
では、待合室でお待ち下さい。
しばらくすると、
看護師さんがそばに来て、
今、パジャマを着てみえるけれど、どうされますか?
準備して来ていないから、お気に入りの洋服を取りに行けますか?
タクシーを使えば、それほどかからないと思います。
確か近くでしたね。
では、そうして下さい。その間にお体を整えますね。お気をつけていらして下さいね。
病院の玄関前に待機中のタクシーを見て、こんな時間に止まっているんだ、大きな病院だから、そこは、すごいなと…。
タクシーに乗り込もうとすると、看護師さんが荷物をかかえて走ってきた。
救急車に乗る時、キミと一緒に運んだ毛布やクッションだった。
たくさんだから、今持ってってもらった方がいいかと。
ありがとうございます、助かりました。
と荷物を受け取り、私は自宅へ向かった。
運転手さんに、また病院まで戻るから待っていてほしいと伝えて、玄関の鍵を開けた。
慌ただしく出かけたんだとキミの部屋に入って思った。
クローゼットからチェックのシャツ、整理ダンスから肌着、靴下、オーバーオールを取り出して袋にいれて、待たせてあるタクシーへ乗った。
帰りも行きも私は無言だった。
運転手さんも無言だった。
救急科の受付のベルを 鳴らすと、二人の看護師さんが出て来て、
お母さん、早い!と二人がハモった。
洋服を渡し終わると、外来看護師のMさんがこっちの方がいいかもと空いている診察室へ連れて言ってくれた。
どちらかと言うと、ずっと笑顔の私に、泣いていいんだよ、泣きゃなきゃダメ!
入院中、さんざん予行練習みたいに泣いたから、もう泣かないよ。むしろキミとの約束だから笑顔だよ。
強い親子だね。
看護師のMさんの方が涙ぐんでいた。
その優しさに私の目も潤んだ。
そうだ、連絡を取らないと。
じゃあ、こっちの方がいいかもしれないと、ベンチが並ぶ場所へ案内された。
入院中にこんな時はどこへ連絡が必要かは聞いてあり、携帯の電話帳を開いた。
私が困らないように、キミは準備をもう始めていたんだと感じた。
電話の向こうから、
はい、市役所の守衛室です、と聞こえてきた。
次回へつづく…